性をとりまく環境と性行動の実情
産婦人科外来アンケート(2002-2006年)の結果から

1.情報があふれる社会 −それは正しい情報?−



 近年、若者達の性行動は活発になり、性交年齢は若年化する一方です。その性行動の結果が、望まない妊娠の結末としての「人工妊娠中絶」、エイズを始めとする「性感染症」です。彼らはその結果、身体も心も傷を負ってしまうのです。当院産婦人科外来にもそうした若者達が診察を受けに来ます。

 今、世の中には情報があふれかえっています。その中には性に関する情報もたくさん含まれていて、それらはテレビ、インターネット、携帯電話などを通じて、簡単に手に入れることができます。皆さんはその膨大な情報の中でその情報が「正しい情報」なのか「間違っている情報」なのか判断できますか?正しい情報や知識を持たないまま、「友達はもう経験したから・・・」という理由で性行為に走ったとしたら…。

 様々な情報に影響され、日本の若者達は常に間違った性の知識を身につける危険にさらされています。さらには、学校での性教育の内容も十分とは言えず、正しい性の知識を教わる機会は縮小するばかりです。加えて、正しい性の知識を持っていない大人も多いため、家庭でも教えることができていないのが現状ではないでしょうか?

2.人工妊娠中絶 ―その命は望まれていたのか?―



 当院では人工妊娠中絶を受けに来た方とそのパートナーの方にアンケートを書いていただいております。そのアンケートの結果の一部をこれよりお示しします。

 これは2002年〜2006年の立川相互病院における中絶件数を年齢別にグラフにしたものです。20代前半に1つのピークがあります。このグラフで注目すべきは10代の中絶件数もそれなりの数に上るということかと思います。

 これは当院のデータをもとに、全人工妊娠中絶の中の10代の占める割合を年次別にグラフ化したものです。10代の中絶件数割合が徐々に増えてきていることがお分かりいただけると思います。

 アンケートに答えてくれた方々はどんな理由で中絶にいたったのでしょうか?望まざる妊娠、そこにはどんな理由があるのでしょうか。

 これは中絶にいたった理由をグラフにしたものです。「パートナーが産みたくないと言った」という理由が最も多くなっています。さらには「今回のパートナーと結婚・育児する気はない」、「仕事がある」等の理由から、中絶にいたった妊娠は「予定外の妊娠」であったことが分かります。このことは避妊や妊娠について日頃からパートナーときちんと話し合いがされていなかった結果が反映されていると私たちは考えます。

 これは避妊をしなかった人の理由です。膣外射精は避妊方法にはなりません。「今まで妊娠しなかったから今度も安全だ」ということにはなりません。ここで興味深いのは「相手が嫌がるから」、「雰囲気が悪くなるから」とう回答が女性のみにあることです。本当に相手のことを思うのなら、また、日頃から話し合いがきちんと行われていればこういった回答はなくなるのではないでしょうか。このことの根本には相手との関係の希薄さ、コミュニケーション不足のがあるのではないでしょうか。

 余談ですが、安全日だと思ってもそれは医学的に正しい安全日ではないことが多いのです。

 これは妊娠しづらいと思う時期を答えてもらった結果です。
 さて、どれが正しいのでしょうか?あなたの思っている答えは正しいのでしょうか?その知識は正しいものですか?このようなあいまいな知識のもとに性行為を行った結果が、中絶という悲しい結果につながっているのです。

3.避妊 ―大切な命を守る―



  このグラフにはとても興味深い結果が出ています。女性は学校、友人など「誰かに聞いた避妊の知識」が主たるものであり、中には避妊の知識を病院で得た人もいるのに対し、男性はAVビデオで得た知識という回答があり、さらには病院で避妊の知識を得た人はまったくいません。女性は知識共有派であるのに対し、男性は独学派ということなのでしょうか。

4.性感染症 ―自分の身は自分で守る―

 性感染症、ちょっと前まで「性病」と呼ばれていた病気にどんなものがあるかご存じですか?それが時として不妊の原因となったり、生命に関わることになったりするということを知っていますか?下のグラフは当院を受診した性感染症患者の年齢別割合です。


 性的に活発な20代にとても多いということが分かっていただけるでしょうか。それに隠れるように、10代での性感染症患者が増えているという事実も忘れないでください。ところで性感染症にはどんな病気があるかというと、クラミジアを筆頭に、淋病、トリコモナス、梅毒など聞き覚えのある病気から尖圭コンジローマという聞き慣れない病気まであります。そして、性感染症の代表格といえばエイズです。最近は「クラミジアは1回薬を飲むだけで治る」と簡単に考えてしまう人も多いようですが(医療が発展していい薬があるのは確かですが…)、クラミジア感染は不妊症の原因になります。クラミジアは子宮や卵巣といった場所に強い炎症を引き起こし、その結果が不妊につながるのです。

 当院では性感染症患者の方々にもアンケートをお願いしています。その結果を以下にお示しします。

 性感染症はどのような職業の人に多いのでしょうか?夜の仕事につきものの病気という印象があるかもしれませんが、受診者の職業を見てみると…

 これを見る限りだと医療者もそうでない人もなるときにはなるようです。そして職業には関係なく、まんべんなく罹ります。これを読んでいるあなたも人ごとでは済まされません。

 性感染症は防げる病気です。それは上のグラフを見ていただいても分かると思います。予防をしていたのに罹る方もいます。これには2つの理由があると思います。1つめの理由は「性感染症予防をしていても防げないものもある」ということです。ヘルペス感染などは予防をしていても罹ることがあります。2つめの理由は「性感染症予防がしっかりとできていなかった」という事があるかと思います。例えば「オーラルセックスの時にコンドームをつけなかった」などがここに入ってきます。

 これは性感染症で当院を受診した患者さんの診断名です。当院受診者の中ではクラミジアがずば抜けて多いことが分かります。そして最初にお話しした通り、クラミジアは不妊症の原因となることがあります。決して油断できない病気です。

5.最後に ―私たちの思い―

 以上、当院でのアンケートの結果をみなさんに見てもらいました。みなさんは何を感じて何を考えたでしょうか?ちゃんとした知識はあなたの身体も心も、相手の身体や心も、ましては新しい命の身体や心を守ることになります。このページを通して一緒に正しい知識を勉強していきましょう。