苦手が、好きに

 音楽は遠かった。和音が分る級友が不思議で、楽譜とは縁遠かった。日曜朝、ラジオの「音楽の泉」。流れた曲が物語として語られるが、分からない。歌うのは好きだった。70年安保、「沖縄を返せ」「青い空は」を大声で歌った。
 先日、50年ぶりの知人からリコーダー演奏の案内が届き、習慣のない演奏会へ。彼が40年間育ててきた市民との合奏、若手のプロたちとの協奏。心を軽くして聴いた。バッハ・G線上のアリアは、懐かしく美しかった。90年代冨田勲のシンセサイザーで好きになった。
 縁のある人や信頼する監督の作品、心を自由にする時、新たに心を震わすことがある。山田洋次の最新作「こんにちは、母さん」のショパン・ノクターン。苦手だった音楽が、本当は好きだったかもしれない。

宮地秀彰

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