お母さんを 声と匂いで探した

 弱視で母が見えなかった彼女は、長じて母にそう答えた。子どもは生来の視力障害を疑わない。母は園で子が、目を使わず自分を探し当てているとは思わなかった。眼科医は、4歳のとき視力が0.1に満たないと診断し治療した。0.3を獲得し字が読めるようになった。
 旧友の眼科医はもと内科医。40年前、糖尿病で目の治療を受けられず失明し自殺に追い込まれる患者を目の前に、眼科に転じた。そして30年前16歳の高度視力障害者に会う。幼児期に治療されれば回復できたはず。診療のかたわら自治体の幼児眼科健診を確立していく。「小学校入学前に1.0の視力」は当たり前になったという。2022年国は自治体3歳眼科健診の屈折検査購入を補助することにした。
 彼の口癖は苦しむ人の「要求」だった。

宮地秀彰

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