あなたのクスリ大丈夫? その3 国民不在の歪んだ薬事行政

<健康のいずみ580号(2022年4月5日)より>

 最終回では、日本の薬事行政の問題点について、地域保健企画代表取締役で、薬剤師の島野清さんに寄稿いただきました。


 医薬品には、疾病の治療に用いられる使用価値のある「生理活性物質」として、また製薬企業が製造販売して利益を得る「商品」という2つの側面があります。その「商品」としての側面のもつ複雑さが、社会保障制度や患者負担にも大きな影響を及ぼしています。

高騰する新薬が保険財政を圧迫する

 は2020年の日本国内の医薬品売上高の上位10品目です。第2位のオプジーボは発売当初は100mgで73万円という高薬価のため保険財政を圧迫することが懸念され、年間3千5百万円にもなる費用について国会でも取り上げられました。
 近年の新薬の品目数に占めるシェアは減少する一方、金額に占めるシェアは上昇し、16%の数量で薬剤費の6割超を占めるなど薬剤費の高騰をもたらしています。

参考資料 日本総研:薬剤費の推計――2001~2017年度。JRIレビュー2020、Vol.5

高薬価のカラクリ

 新医薬品が開発されると国は製薬会社との協議で、その医薬品の新しい価値に基づいて価格を決定します。その薬価決定までの審議は非公開で、議事録も作成されておらず、結果だけが報告されますが、これも高薬価の要因の一つとされています。2010年から「新薬創出・適応外薬解消等促進加算※」というものが導入されました。

大手製薬会社の突出した利益率

 2017年の国民医療費に占める薬剤費の比率は24.8%で2001年の21.8%より上昇しています。新薬の薬価はイギリス・フランスの2倍、ドイツの1.3倍と非常に高く、日本の製薬企業であるアステラス製薬の売り上げ総利益率は77.6%、武田薬品は68.5%です。一方、トヨタ自動車の総利益率は18.0%、日本製鉄は12.7%ですから、日本の大手製薬会社の利益率がいかに高いかわかります。(ジェネリックメーカーの総利益率は、沢井製薬38.7%、日医工19.9%と新薬メーカーとの差が大きい)(2019年決算数値)

低薬価と高薬価の二極化という歪み

 つまり日本の製薬業界では、今回の供給不足の発端となったような採算ぎりぎりの生産体制を強いられるジェネリックメーカーと、新薬開発によって莫大な利益を確保し続ける大手メーカーとの二極化が生じているのです。これは革新的なイノベーション(新製品開発)評価という目的で新薬メーカーに対して利益を優先する政治の流れがあるからです。
 日本は高齢化率に対して、社会保障支出が低く、諸外国と比べても社会保障費は高くありません。高齢者医療費2割負担化などの医療改悪の阻止に加えて、大手メーカー新薬の高薬価構造にメスを入れることもこれからの日本の医療の大きな課題です。【地域保健企画代表取締役薬剤師・島野 清】

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