あなたのクスリ大丈夫? その2 「供給不安定」の背景にあるもの

<健康のいずみ579号(2022年3月5日)より>

 「医薬品の供給不足」状態が解消までには、2年あまりの時間を要すると言われています。一部メーカーでは急遽、増産体制を取っていますが、それでも1~2割程度の増産にとどまり、全国の不足状態を補うにはほど遠い状況です。

背景にある「薬価切り下げ政策」

 「今回の医薬品メーカーの不祥事多発の背景として、長い間政府が進めてきた『薬価切り下げ政策』があります」と、立川相互病院薬剤部・田原裕尚部長は説明します。
 昨今の社会保障費抑制という流れの中で、診療報酬は引き下げられ、とくに薬価は予算削減の格好の標的となってきました。「高い薬価こそ医療費増大につながるもの」として引き下げが繰り返され、医薬業界は薄利多売を強いられることになります。そのもっとも大きなしわ寄せを受けたのがジェネリック(後発医薬品)メーカーでした。

ジェネリックシェア拡大の陰で

 国は医療費削減の大きな切り札として、ジェネリックの使用を推進し、この10年間でその使用割合は倍増してきました。
 推進政策のもとで国がジェネリックメーカーに課しているのが、薬価を採算ギリギリまで切り下げ、不採算となっても供給し続けなければならないという愚策です。「コストを抑える圧力の中で、多くのメーカーに品質管理体制の不備ができ上がり、薬剤の安全性確保と安定供給を脅かす今回の事態へとつながっています」と田原さんは言います。
 また、ジェネリックメーカーの多くが、先発医薬品の委託製造を行っている実態も明らかになってきました。医薬品の安全・品質が損なわれている今回の問題は、単にジェネリックメーカーだけでなく、製薬業界全体の抱える課題として捉える必要があります。

安定供給のための施策を

 この混乱を受けても、厚生労働省は同一成分の薬剤を複数のメーカーで製造しているので代替可能として問題視せず、有効な対策を打っていません。田原さんは「薬剤行政の屋台骨の脆弱さが露呈しており、国内で医薬品の過不足を把握するシステムすらない。医薬品の安定供給がなければ、医療が成り立たないという危機感を持つ必要があります。安全性・有効性・経済性を担保したうえで安定供給を確保する施策を国に求めていくべきです」と話します。

キーワード解説

「薬価」とは:医療用医薬品(医師が処方する医薬品)の公定価格のこと。公的な医療保険が適用される医薬品の価格は、すべて厚生労働大臣が決めています。病院や診療所で使われる薬の価格は、製薬会社が自由に決めているわけではありません。
供給不安定はなぜ起こる?

【A社の製造がストップした場合】

 同一成分の薬を製造するB~E社で不足分をまかなう必要がありますが、工場規模や生産計画の変更には時間がかかります。
 B~E社は生産規模が拡大できるまでの期間は、従来から自社薬品を服用している患者分の在庫確保のために「出荷調整」という、「出し惜しみ」策を取ります。また、一部薬局による買い占めも影響し、1つのメーカーの供給が止まることで、医薬品全体の流通が連鎖的に滞っていきます。

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