あなたのクスリ大丈夫? その1 薬が足りない?!

<健康のいずみ578号(2022年2月5日)より>

 「毎日のように薬の問屋やメーカーから、『欠品、出荷調整』の連絡が入ります。この状態が昨年から続いて、欠品数は多くなるばかり。発注どおりに薬は納品されません。患者様に『いつものお薬』をお渡しすることができず、別メーカー品や先発医薬品への切り替えをお願いする毎日です」立川相互ふれあいクリニックの近隣の多摩薬局の薬剤師・駒井恵さんはため息まじりに話します。

供給不安定の品目が多発

多摩薬局では常時、1,650種類ほどの医薬品を取り扱っています。


 ジェネリック(後発医薬品)を中心に薬剤の供給が不安定となった背景には、相次いで明らかになった医薬品メーカーの不祥事に加えて、メーカー工場の地震被災や倉庫の火災などが重なったことがあります。「小林化工」(福井県)やジェネリック医薬品最大手の「日医工」(富山県)が不適切な生産管理体制を行っているとして、相次いで国や県からの立ち入り検査や業務停止命令を受けました。これをきっかけに多くのメーカーへの検査も強化され、問題摘発や自主回収が多発する事態となりました。さらに、輸入に頼らざるをえない医薬品原材料が、コロナ禍の影響で調達が難しくなっていることも追い打ちをかけています。
 この結果、供給停止や出荷調整の影響は、国内で扱われる約11200品目のうちの約4000品目(全体の35%)に及んでいます(2021年12月現在)。

約9割の患者さんの調剤に影響

 この事態は、多摩薬局では現在、約9割の患者さんの調剤に影響を及ぼしています。処方された薬剤の在庫がない場合、①別メーカーの同じ成分の薬剤への切り替え、②ジェネリックから先発医薬品への切り替え、③医師へ依頼し、類似薬への処方切り替え、の順で対応を行っています。とくに先発品への変更では、患者さんの自己負担金額が増加するケースなども生じています。
 ③の方法でも対応できない場合、医師の判断のうえで、治療自体の中断や変更を行うケースも少数ながらあります。駒井さんは「これまで当たり前にあった『医薬品の安定的な供給体制』が確保されなければ、治療が完遂できない、医療が成り立たなくなるという危機感があります」と話します。
 骨粗鬆症の自己注射を毎日行うある患者さんは、「先発品へ変更すると、月の負担が5千円くらい増えます」とその影響の大きさを感じています。

安定供給まで数年を要する?

 安定した供給が可能な従来の在庫状況に完全に戻るまでには、あと2年くらいかかるという見方もあります。「このような長期的かつ深刻な供給不安定状態に陥っている薬局の現状を、患者様だけでなく医師・看護師など医療者の方々にももっと知って頂きたい。この未曾有の事態を乗り切るためには皆様のご協力が必要です」と駒井さんは訴えます。
 薬局窓口では薬剤変更に伴って、待ち時間や説明時間も通常より長くなっている状況です。「患者様にはもうしばらくの間ご不便をおかけいたしますが、供給不足の中で、適正な治療のため医薬品確保に薬局として最大限の努力を続けています。一度お渡ししたお薬は交換・返品できないため、変更となったお薬についての疑問・不安については窓口でご相談ください。ご理解とご協力をお願いします」と駒井さんは話します。
 今回明るみに出た医薬品メーカーの不祥事多発の背景には、これまで政府が推し進めてきた「薬価切り下げ政策」があると言われています。次回は、その点を取り上げます。