「食べたい、食べさせてあげたい、を叶えたい」 ST(言語療法士)の想い

 当院には,急性期病院で経口摂取は困難と診断されて転院されてきた患者様が何割かいらっしゃいます。私の義父もその一人でした。肺炎を発症する前はむせながらも自力で軟菜食を食べていたので、食形態を調整すればまた経口摂取は続けられるだろうと考えていました。しかし、義父の心肺機能の回復は予想通りにはいきませんでした。加齢に伴う嚥下障害もあり、ゼリーもミキサー食も少しでも食べるとすぐに熱が出てしまう状態となり、当院で最期を迎えました。楽観的な見解を口にしたばかりに、夫に期待を与えてしまい、病状を受け入れるために長く葛藤させてしまうこととなりました。その時に、肉親の「なんとか食べさせてあげたい」という想いは、病状説明だけでは簡単に納得できるものではないことを痛感し、その後STとして同じような状況の患者様にどう寄り添ったらよいか考えさせられる経験となりました。

当院では誤嚥しながらも食べている患者様が多くいらっしゃいます。誤嚥量も人それぞれで、かなりの誤嚥でありながら肺炎に至らない方もいらっしゃいます。心肺機能の個別性も大きく関わりますが、その他に患者様の過ごし方に理由があるのでは?と思って見てみました。食形態や誤嚥しにくい姿勢に配慮する他、呼吸状態や肌の色などをよく観察し、食事中でも適宜吸引などをし、呼吸ケアをこまめに行っています。ほぼ寝たきり生活だった方でも食事時間には車椅子に乗車しホールに出たり、週二回の入浴とリハビリで体を動かし、痰や誤嚥物を動かして排出しやすくしています。患者様に関わる全てのスタッフの力で、「食べる事」が可能になっています。

 義父が転院した当時、当院にSTはいませんでしたが、口腔ケアの際にお酒で口を拭ってもらうなどしていました。食べられなくても味や匂いを感じる機会だけでも持っていただこうという土壌がありました。当院のスタッフと一緒であれば、「食べられない方の食べたい」を、少し形を変えてでも叶えられるのではないかと考えています。これまでに「チョコを食べたい」「味噌汁を飲みたい」「刺身を食べたい」など様々なご要望に出会いました。皆さん状況が異なるため、方法も色々ですが、その都度医師や看護師と相談し、手段を見つけて少量でも召し上がっていただけるよう工夫してきました。病状などから、「何も食べられません」という評価にならざるをえない方もいらっしゃいます。しかし、患者様とそのご家族様が「それでも食べたい(食べさせてあげたい)」という想いがあれば、少しの可能性も見落とさないように工夫し、口から味わう喜びが守られるよう努めていきたいと思っています。

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